研究テーマ

周産期メンタルヘルス問題✕認知行動療法

周産期メンタルヘルス問題

 世界が取り組むべき重要な課題のひとつに、母子保健の改善があります。世界保健機関(WHO)はメンタルヘルス疾患に罹患する妊産婦の割合を10~13%と報告しています(WHO, online: Maternal mental health, 2020年5月)。母親のメンタルヘルス不調は、早産、栄養不良等の子どもの発育発達へ影響を及ぼすと言われています。こうした子どもへの負の影響は少なくとも数年間続く深刻な問題となります。また我が国は、欧米と同様に、妊産婦の死因トップが産科的身体疾患でなく自殺であることが明らかになり(森ら, 2018)、周産期メンタルヘルス問題は優先して解決すべき我が国の社会課題として認識されています。

周産期のうつ・不安

 ひとりの女性が赤ちゃんを授かったその瞬間から母親となれるでしょうか。答えは、‟ No ”です。 心理学的観点から考えると、母親になるとは、母親になっていくプロセスです。女性の多くは、赤ちゃんを授かった喜びを感じている一方で、不安を感じます。赤ちゃんを授かった女性の身体が急激に変化していくと同じように、妊娠、出産、産後はこころも揺れ動きます。

 下に示す図は、妊娠、出産、産後において、気分の落ち込みや不安、ストレスを抱える女性の推定数です。我が国では、専門的支援が必要とされる重度のうつ病に罹患する女性は約2万5千人、軽度から中等度のうつや不安を抱え、専門的支援あるいはセルフケアが必要となる女性は約13万人、日常生活に支障が生じるほどのストレスを抱える女性は約25万人と推定されます。

認知行動療法

 認知行動療法は、何か困ったときにぶつかったときに、本来持っていた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも注目を集めている精神療法です。(うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)、厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」より一部抜粋)

 

研究課題

周産期の不安・うつに対する認知行動療法のプログラムの開発と効果検証とその社会実装への取り組み

 周産期メンタルヘルス対策が進んでいるイギリスやオーストラリアでは、周産期のうつ病や不安症に対して認知行動療法を基盤とした非薬物治療の整備が着実に進めてられています。しかしながら我が国では、その必要性は認識されているものの、その整備が非常に遅れています。そこで本研究では、妊産婦さんを対象に、周産期の不安・うつに対する認知行動療法プログラムを実施して、その有効性を検証します。また現在、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、その感染への不安から外出を控えている妊産婦が必要な治療やケアを安心して受けられるように、オンラインによる支援体制を整備します。さらに、国内で周産期の不安・うつに対する認知行動療法の普及を目指して社会実装研究を行います。

 2023年度中に、フィージビリティ研究を開始する予定(現在、試験準備中 2023年5月時点)

周産期における女性のメンタルヘルスについての縦断的観察研究

 周産期メンタルヘルス対策が進んでいるイギリス等のガイドラインでは周産期のうつや不安に対して認知行動療法が推奨されています。しかし、日本では認知行動療法を利用したメンタルヘルスケアを行う体制は未だに十分に整っておらず、特に、不安症など、うつ病以外の精神症状に関する調査がほとんど実施されていません。妊娠・出産をむかえる女性がどのような不安で悩まされているのか、どのような介入が効果的なのかは明らかにされていません。そこで、この研究で、妊娠・出産をむかえる女性の様々な精神症状と、それに関連する要因を調査します。また、周産期の精神症状を測定するための、国際的に使われている評価尺度の日本語版を作成することも目的としております。本研究の成果は、周産期のメンタルヘルスケアにおいて早期発見・早期介入のためのスクリーニング検査の導入や、効果的な心理療法の開発に活かすことができます。

臨床試験登録情報 UMIN-CTR (参加者募集終了‐試験継続中 2023年5月時点)

  • 日本語 https://center6.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000050312
  • English https://center6.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr_e/ctr_view.cgi?recptno=R000050312

臨床試験の実務経験

アンヘドニアに対するポジティブ価システムに焦点を当てた認知行動療法の超高周波音響療法による増強効果を検証するプラセボ対照二重マスキングランダム化比較試験

実務担当:

  • 臨床試験の事務局
  • 臨床試験コーディネーター
  • 認知行動療法の介入プロトコルとマテリアル開発
  • Electric Data Captureシステムの構築と整備
  • 臨床試験の運営に必要な手順書の整備(効果安全性委員会手順書、データモニタリング計画書等)
  • インフォームド・コンセントの実施者
  • 症状評価者
  • 認知行動療法の実施者

抑うつに対するヴァーチャル・リアリティを活用したポジティブ価システムに焦点を当てた認知行動療法のフィージビリティ

実務担当:

  • 臨床試験の事務局
  • 臨床試験コーディネーター
  • ヴァーチャル・リアリティを活用した認知行動療法の介入プロトコル開発
  • 臨床試験の運営に必要な手順書の整備
  • インフォームド・コンセントの実施者
  • 症状評価者
  • 認知行動療法の実施者

心的外傷後ストレス障害に対する認知処理療法の有効性に関するランダム化比較試験:SPINET

実務担当:

  • 主要評価等の独立評価者