周産期メンタルヘルスの問題✕認知行動療法

周産期のうつ・不安
 ひとりの女性が赤ちゃんを授かったその瞬間から母親となれるでしょうか。答えは、‟ No ”です。 心理学的観点から考えると、母親になるとは、母親になっていくプロセスです。女性の多くは、赤ちゃんを授かった喜びを感じている一方で、不安を感じます。赤ちゃんを授かった女性の身体が急激に変化していくと同じように、妊娠、出産、産後はこころも揺れ動きます。妊産婦さんの10~15人に1人がうつ病や不安症に悩むと言われています。

認知行動療法
 認知行動療法は、何か困ったときにぶつかったときに、本来持っていた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも注目を集めている精神療法です。(うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)、厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」より一部抜粋)

周産期のうつ・不安に対する認知行動療法のプログラムの開発と効果検証とその社会実装への取り組み

 周産期メンタルヘルス対策が進んでいるイギリスやオーストラリアでは、周産期のうつ病や不安症に対して認知行動療法を基盤とした非薬物治療の整備が着実に進めてられています。しかしながら我が国では、その必要性は認識されているものの、その整備が非常に遅れています。そこで本研究では、妊産婦さんを対象に、周産期のうつ・不安に対する認知行動療法プログラムを実施して、その有効性を検証します。また現在、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、その感染への不安から外出を控えている妊産婦が必要な治療やケアを安心して受けられるように、オンラインによる支援体制を整備します。さらに、国内で周産期のうつ・不安に対する認知行動療法の普及を目指して社会実装研究を行います。

周産期における女性のメンタルヘルスについての縦断的観察研究

 周産期メンタルヘルス対策が進んでいるイギリス等のガイドラインでは周産期のうつや不安に対して認知行動療法が推奨されています。しかし、日本では認知行動療法を利用したメンタルヘルスケアを行う体制は未だに十分に整っておらず、特に、不安症など、うつ病以外の精神症状に関する調査がほとんど実施されていません。妊娠・出産をむかえる女性がどのような不安で悩まされているのか、どのような介入が効果的なのかは明らかにされていません。そこで、この研究で、妊娠・出産をむかえる女性の様々な精神症状と、それに関連する要因を調査します。また、周産期の精神症状を測定するための、国際的に使われている評価尺度の日本語版を作成することも目的としております。本研究の成果は、周産期のメンタルヘルスケアにおいて早期発見・早期介入のためのスクリーニング検査の導入や、効果的な心理療法の開発に活かすことができます。